交通事故より多い家庭内事故②
転倒・転落、ヒートショックの脅威!
家庭内事故の9割が転倒・転落
家庭内で最も多い事故が転倒・転落です。令和3年人口動態調査(厚生労働省)によると、 65歳以上の家庭内事故の死亡者数は、転倒・転落だけで交通事故の4倍以上です。ちょっとした転倒でも打ちどころが悪ければ、高齢者はとくに骨折や頭部外傷等の大けがにつながり、それが原因で要介護となったり、最悪の場合は命を落とすことさえあります。
東京消防庁によると、家庭内事故による救急搬送は転倒と転落だけで全体の9割を占めており、その約4割が要入院となっています。

〈転倒・転落の事例〉
● 玄関の上がり框やアプローチの段差でつまずいて転倒
● 階段を踏み外したり、バランスを崩して転落
● 夜間にトイレへ行く際、動線上の段差や階段で転倒・転落
● 起床時にベッドから転落
● 絨毯や畳のヘリ、電源ケーブルに足をとられて転倒
● フローリングや浴室の床、バスマットなどで滑って転倒
● 脚立や椅子に乗って電球の取り換えなど高所の作業で転落 他
【転倒・転落事故の原因】
〈外的原因〉
・段差(わずかな段差ほど気づかない場合あり)
・履物(脱げやすい・滑りやすい)
・障害物(電気コード類、滑りやすいマット、端のめくれたカーペット)
・足元が暗い(照明が不十分)他
〈内的原因〉
・身体機能の低下(高齢者はすり足で歩くため、つまづきやすい傾向あり)
・注意力不足(加齢による認知障害・視力の低下なども影響)
・薬の副作用(高齢者は多数の薬を服用⇒めまい・ふらつき、眠気、脱力感)他
●転倒防止に向けた提案例
1. 床の段差を解消
家の中の大小の段差をフラットに、またはスロープにします。特に玄関や廊下、和室の敷居部分は転倒リスクが高いため、改修の際は優先ポイントです。
(⇒家の中の主な段差)

2. 床材の変更
転倒時の衝撃を軽減するため、クッション性の高いフローリングやカーペット、滑りにくい床材、浴室やトイレには滑り止め 効果のあるタイルやマットなどで事故のリスクを下げます。
3. 照明に配慮
階段、廊下、トイレ、寝室周辺など、足元灯(フットライト)や、人感センサー付きの自動点灯ライトを設置することで、夜間や暗い場所での転倒を防ぎます。

4.生活動線と家具の配置、配線の見直し
若い頃は難なくよけられた床面の障害物も、足腰が衰えるとつまずいて転ぶ原因になります。安全な動線の確保のため、通路に不要な家具や物を置かないようにし、電源ケーブルに足を引っ掛けたりしないようコンセントの位置等も見直しましょう。また、階段の昇り降りがつらい場合、寝室や洗濯物干し場を2階から1階に移すことも考えましょう。
5.手すりの設置
個人の住宅は手すりの取付高さを単にマニュアル通りに設置するのは危険です。人は身長も手の長さも足の長さも体型も個人差があります。それを無視して設置すると全く役に立たない手すりになる可能性もあります。何をするための手すりか(例:立ち上がる、水平移動、体の固定、靴を履く、衣服の着脱など)、どちらの手で使うか、取付位置など設置前に十分シミュレーションしましょう。
〈手すり設置のポイント〉
① 普段、壁に無意識に手をついている場所があれば、そこに手すりが必要です。
② 手すりの高さは、利用者の大腿骨大転子の位置(杖のグリップと同じ)が目安です。
③ 階段の手すりを片側しかつけられない場合は、降りるときの利き手側を優先します。
④ 壁と手すりの色が同色だと、視力が衰えると見にくいため、同色は避けましょう
⑤ 設置する際に石膏ボードの壁は強度が不足するため、下地補強等が必要です。
⑥ 手すり用の滑り止めテープ等(防水もあり)も必要に応じて活用しましょう。

死亡率が高い冬場のヒートショック
●浴槽で溺水事故?
厚生労働省の人口動態統計(令和3年)によると、高齢者の浴槽内での不慮の「溺死・溺水」の死亡者数は4,750人で、交通事故死亡者数2,150人の2倍以上です。
お風呂で溺れるとは不思議に感じるかもしれませんが、高齢者の溺水は、ヒートショックにより急性の心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすことが大きな原因の一つであり、その結果意識を失って溺死に至るわけです。
●救急車で運ばれても2人に1人は死亡!
東京消防庁によると、冬場のヒートショック等で救急搬送されるケースでは約9割が重症以上であり、2人に1人は死亡しています。また命は助かっても半身マヒなどの後遺症により要介護となることも少なくありません。
高齢者の入浴中に多発するヒートショックは、暖かい場所から寒い場所への移動や、その逆の状況で起こる急激な温度変化により、血圧や心拍数が大きく変動することで引き起こされます。日本の高齢化が進む中、死亡者数は年々増加しており、冬場に多いことは高齢の署名人の訃報が一気に増えることでもわかります。
以下に当てはまる場合は、とくにヒートショックに要注意です。
・浴室、脱衣所が極端に寒く、暖房器具がない(⇒11~4月に死亡事故が多発)
・一番風呂に入ることが多い(⇒浴室が冷えており、湯舟との温度差が大きい)
・飲食後や飲酒後に入浴することが多い(⇒1時間以上は空ける方が安全)
・熱めのお湯に長くつかるのが好き(⇒冬は40℃、夏は38℃に10分程度が目安)
・高血圧、糖尿病、脂質異常症などがある(⇒血圧の変動が大きいためリスク大)
・心臓や脳、血管に持病がある(⇒心筋梗塞や脳血管障害を誘発しやすい)
●ヒートショック防止に向けた提案例
1. 断熱性能の向上
家の断熱性能を向上させ、寒暖差を解消するためには、二重ガラスやLow-Eガラスにして窓の断熱化を図るのが効果的です。とくに浴室や脱衣所の窓の断熱強化を優先しましょう。また、必要に応じて窓周りの断熱材の追加も検討しましょう。
また、リフォームの場合は高断熱仕様のユニットバスへの交換も検討しましょう。
2. 暖房設備の導入
① 浴室用暖房乾燥機
暖房、乾燥、涼風、換気、24時間換気などの機能があります。
入浴前にスピーディーに浴室を暖めて温度差を軽減します。
② トイレ・脱衣所にも暖房機
ヒートショックはトイレや洗面・脱衣室でも起きています。
人感センサー付きの小型暖房器具もあります。
③ 床暖房
浴室や脱衣所、トイレなど、足元が冷えやすい場所に床暖房(温水式・電気式)
を設置することで大きな効果が望めます。
浴室はユニットバスにすることでより効果を高められます。
3. 浴室の床のリフォーム
在来の冷たいタイル床には、クッション性がある浴室用床シートを貼るのがおすすめです。足触りも気持ちよく、冷たくありません。また滑りにくく、転倒時に衝撃を抑える効果もあります。タイルを剥がさず、タイルの上から貼ることができるのもメリットです。また従来のタイルより冷たさを感じにくく滑りにくいタイルもあります。
●夏場の熱中症も増加傾向
冬場はヒートショックが脅威ですが、暑い夏も冬場ほど深刻ではないにしろ注意が必要です。近年の地球温暖化の影響で夏の気温が上昇していることから、高齢者の熱中症も増加しています。 高齢者の場合、屋外に比べ住宅での発生が半数を超えています。高齢になると暑さ寒さの感覚が鈍くなり、冷暖房のオン、オフのタイミングや快適に感じる温度、湿度の設定がわかりにくくなるため、冷暖房を含む空調設備機器は自動的に室内を快適に保つ機能の付いた機種の設置が望まれます。